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村上春樹

上 P.164
「踊るんだよ」羊男は言った。「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。そうするとあんたはこっちの世界の中でしか生きていけなくなってしまう。どんどんこっちの世界に引き込まれてしまうんだ。だから足を停めちゃいけない。どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、そんなこと気にしちゃいけない。きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ。そして固まってしまったものを少しずつでもいいからほぐしていくんだよ。まだ手遅れになっていないものもあるはずだ。使えるものは全部使うんだよ。ベストを尽くすんだよ。怖がることは何もない。あんたはたしかに疲れている。疲れて、脅えている。誰にでもそういう時がある。何もかもが間違っているように感じられるんだ。だから足が停まってしまう」
僕は目を上げて、また壁の上の影をしばらく見つめた。
「でも踊るしかないんだよ」と羊男は続けた。「それもとびっきり上手く踊るんだ。みんなが感心するくらいに。そうすればおいらもあんたのことを、手伝ってあげられるかもしれない。だから踊るんだよ。音楽の続く限り」
オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。

下 P.94 (ディック・ノース)
「アメに最初に会った時、彼女にどうしようもなく引き寄せられたんです。渦のようにです。抵抗のしようもなかったんです。僕にはわかったんです。これは一生に一度のことなんだって。こういう巡り合いというのは一生に一度しかないことなんだって。そういうのってね、わかるんですよ、ちゃんと。で、僕は思いました。この人と一緒になったらたぶん僕はいつか後悔することになるだろう。でも一緒にならなかったら、僕の存在そのものが意味を失うことになるって。あなたはこれまでに、そういう風に思ったことあります?」

下 P.209
僕はいったいどうすればいいのだろう?
でもどうすればいいのかは僕にはわかっていた。
とにかく待っていればいいのだ。
何かがやってくるのを待てばいいのだ。いつもいつもそうだった。手詰まりになったときには、慌てて動く必要はない。じっと待っていれば、何かが起こる。何かがやってくる。じっと目をこらして、薄明の中で何かが動き始めるのを待っていればいいのだ。僕は経験からそれを学んだ。それはいつか必ず動くのだ。もしそれが必要なものであるなら、それは必ず動く。
よろしい、ゆっくり待とう。

下 P.379 (僕)
「なんて言えば、いいんだろうな?それは決まっていることなんだよ。僕は一度もそれを疑ったことはない。君は僕とねるんだよ、最初からそう思っていた。でも最初の時はそれができなかった。そうするのが不適当だったからだよ。だからぐるっと一回りするまで待った。一回りした。今は不適当じゃない」

下 P.391 (僕)
「耳を澄ませば求めているものの声が聞こえる。目をこらせば求められているものの姿が見える」
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